2. 姿勢のこと



姿勢について考えてみたいと思います。
日々の生活の中で、良い姿勢というのは、登山のときの登山靴のように大切なものだと思います。
しかし、普段、姿勢を意識することは少ないようです。
私自身姿勢を意識することは少なかったのですが、鍼灸師になってからはよく意識するようになりました。
じつは鍼をする時に姿勢を正すことはとても大切で、その姿勢によって、鍼の効き方も異なってくるのです。
もっともこうしたことは他の分野にもいえることでしょう。
ピアニストは姿勢を変えれば音が変るといいます。
大工がカンナをかけるときも、美容師が髪を切るときも姿勢が大切だそうです。
もっと言えば、勉強をするとき、パソコンをたたくとき、ひとと話をするときも姿勢を正せばいろいろと結果が変ってくるのでしょうね。

それにしても「姿勢」というのはうまい表現ですね。
勢いとは言いえて妙だと思います。
皆さんもひとの姿勢から、意気込みや、気持ちを推察なさっておられるのでしょう。
姿勢にはそのひとの何か勢いのようなものがあらわれるのでしょうね。

ではよい姿勢というのはどんな姿勢なのでしょうか。
よい姿勢というと胸を張り背中をそらした姿勢をイメージし、全身に力の入る方が多いようです。
しかし、よい姿勢というのは、むだな力が抜けてリラックスできる姿勢です。
力は抜けているけれど、だらりとはしていない姿勢です。
ですから、姿勢を正すときはひたすら力を抜いていくことから考えればいいのです。
こういえば簡単そうですが、この力を抜くということがとっても難しいのですね。

さて、中国の気功では「上虚下実」といいます。
上半身の力を抜いて、虚しくし、下半身を充実させることをいいます。
この下半身、もっと絞っていえば腰が、全身の力を抜くポイントのようです。
森信三さんは「立腰」ということを提唱なさっておられます。
「腰骨を立てる」ともおっしゃっておられますが、ポイントとして次の三点をあげておられます。

1.尻を思いっきり後ろに突き出すこと
2.反対に腰骨をウンと前へ突き出す
3.そして下腹に力を入れると、肩のキバリがスカッととれる


この「腰骨を立てる」「立腰」というのが姿をただすうえでもっともシンプルなアプローチだと思えます。
中村天風さんが「肛門を閉める。と同時に、臍下丹田に気力を込め、肩の力も抜く。」とおっしゃられているのも同じことでしょう。
こうして腰に意識をおくことで力を抜いていくことができるようになるのです。

こうして力を抜いていって、大工が柱を立てるときに用いる、糸の先に錘をつけたいわゆる「フリサゲ」のように、重みでからだの垂直線が定まるのが理想的です。
このようなよい姿勢をつくるには運動(体操)や呼吸を工夫していくことが大切なようです。
一生工夫が必要なのでしょうね。